柔道整復師の料金改定は物価高に対応できるのか? 改定率とは
現在、物価高騰による国民生活への影響が続いており、とりわけ物価高対策、そして物価を上回る賃金上昇は急務の政治課題となっています。
我々、柔道整復師の料金に当たる療養費は公定価格の為、物価が上がってもすぐに算定料金に転嫁することはできず医師の診療報酬と同様、 二年毎に政府によって決定されており、来年がその改定の年でありメディアでも診療報酬改定を巡る駆け引きの話題が取り上げられることが多くなっています。その際に注目されるのが改定率です。
診療報酬も療養費の改定も先ず基本方針となる、現在より総額でいくら上げるのかという改定率というものを決定します。この改定率で決定した予算に合うように細かな料金を決めていきますのでとても重要な数字です。
この改定率の決定には医師などの診療報酬改定では厚生労働省が医療機関の経営状況と薬の市場価格の調査を行い、さらに物価上昇、賃上げや国民負担などの社会情勢や様々な要素を考慮したうえ厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の医療部会と医療保険部会や中央社会保険医療審議会(中医協)で医師をはじめとする医療関係者や保険者、学識経験者などと審議を行い、予算編成過程を通じて内閣が決定します。その後、中医協で個々の診療行為に対する点数を審議し、最終的に厚生労働大臣の告示という形で料金が決まります。(告示料金と呼んでいます)
では、同じ公定価格の柔道整復師の療養費の改定率はどのように決定しているのでしょうか。
厚生労働省曰く「柔道整復師の療養費は社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会(以下「検討委員会」という)」というところで検討して決定しているとのことです。検討委員会とは平成24年に柔道整復療養費制度の適正化と不正請求対策を目的に厚生労働省の社会保障審議会 医療保険部会の下に設置された機関ですが、料金について実際にどのような議論がされているのか議事録を見てみると。
前回の令和6年の改定時の検討委員会 議事録抜粋
第27回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会議事録(2024年1月25日)
保険医療企画調査室長
「17ページ目、過去の改定についてです。これまでの改定率は、診療報酬(医科)の改定率の半分となっており、令和4年改定を見ると、医科が0.26%でした。それを踏まえ、療養費としては、令和4年改定は0.13%となっています。」
第29回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会議事録(2024年4月26日)
保険医療企画調査室長
「柔道整復療養費の令和6年料金改定(案)」をご覧いただくと、一番上に柔整療養費の改定率が載っております。診療報酬における医科の改定率は+0.52%などであったことを踏まえ、政府において決定しております。今回の改定率としては+0.26%としています。」
改定率はご覧の通りすでに政府・厚労省が決定しており、これに対して整復師は一切関与していません。検討委員会では不正対策ばかり論じられていて料金改定の方法などの議論はされていません。また、なぜ毎回診療報酬(医科)の改定率の半分なのかのについて当会から再三の根拠の提示の要望に対しても毎回「医師ではないから」「過去からの慣習」「総合的に判断」の繰り返しで、その合理的根拠は示されていません。
毎回、料金改正の時期になると業界団体から「何をいくら上げて欲しい。」という要望が出されますが、ご覧の通り上げる額(予算)すでに決まっていますので上げる項目だけ選ばせ、あとは過去のデータからそこをいくら上げれば予算に合うかで額が決まりますので「いくら上げて欲しい。」は全く意味がないのです。このように改定率の決定に際して柔道整復師は関与していないどころか、物価高や消費税も柔道整復師は半分にはならないのに、なぜ改定率は半分なのか全く根拠も示さない理不尽な料金改定を押し付けられています。
また、平成28年の改定時には柔道整復師に骨折、脱臼の治療に欠かせなⅩ線検査を認めず劇的に請求が減小傾向にある骨折、脱臼の料金を大幅に上げるなど嫌味ともとれるような改正もありました。これらを見ると検討委員会は厚生労働省が業界のお墨付きを得たとする言い訳のための御用機関として利用されているのではないでしょうか。
平成30年には検討専門委員会に参考人として当会、登山会長が出席しましたが極々限られた時間しかなかったため、今でも問題となっている保険者の行き過ぎた調査、照会についての意見に絞られ、時間の都合と称し料金の件は資料の提示すらさせてもらえず、 「この療養費検討専門委員会に私どもが一番期待していたのは、料金改正の問題だったのです。」との発言を残し料金問題について今後に託しましたが、その後も料金問題(改定率)は全く議論されたことはありません。(「第13回柔道整復療養費検討専門委員会 議事録」参照)
過去の改定率
|
改定年月 |
医科 |
柔道整復 |
|
平成10年 |
1.5% |
0.8% |
|
平成12年 |
2.0% |
1.1% |
|
平成14年 |
△1.3% |
△0.65% |
|
平成16年 |
0.0% |
0.0% |
|
平成18年 |
△1.5% |
△0.75% |
|
平成20年 |
0.42% |
0.21% |
|
平成22年 |
(外来)0.31% |
0% |
|
平成24年 |
1.55% |
0% |
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平成26年 |
(消費税分)1.36% |
(消費税分)0.68% |
|
平成28年 |
0.56% |
0.28% |
|
平成30年 |
0.63% |
0.32% |
|
令和 元年 |
(消費税分)0.88% |
(消費税分)0.44% |
|
令和 2年 |
0.53% |
0.27% |
|
令和 4年 |
0.26% |
0.13% |
|
令和 6年 |
0.52% |
0.26% |
元々は柔道整復師も医師と同様の点数方式でほぼ同じ点数でした。(「昭和27年 点数表」参照) しかし、現在はそもそも低い元の料金に対して改定率の半分ですので格差は開く一方で(「適正料金への要望」参照)このような方法では物価高には到底追い付けません。因みに昭和47年と平成6年の改正には登山会長をはじめ理解者の尽力にて二分の一改定を改め大幅改定を行った年もありました。昭和47年改正当時は登山会長は(社)日整に所属し政府との交渉役を担い、その時の改定率は医師16%に対して整復師は80%を超えていました。平成6年改正時には今後は告示準拠への転換するとのことでしたが反故にされ現在に至ります。
柔道整復師算定基準 昭和45年 ・ 昭和47年 改定 抜粋
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項目 |
昭和45年改定 |
昭和47年改定 |
|
初検料 |
90円 |
150円 |
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往療料 |
110円 |
300円 |
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前腕骨骨折 |
550円 |
1120円 |
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骨折後療料 |
80円 |
150円 |
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肩関節脱臼 |
363円 |
1120円 |
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肘関節 |
291円 |
750円 |
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脱臼後療料 |
80円 |
140円 |
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捻挫 |
104円 |
170円 |
|
打撲 |
99円 |
170円 |
|
捻挫・打撲後療料 |
80円 |
140円 |
昨今、民間企業では下請けなどの弱い立場にある中小企業などは料金を押し付けられて価格への転嫁ができず賃上げが進まないといったことが問題となっています。こうしたことから公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」や「下請け法」でも価格転嫁の為の価格交渉が義務化されており、正当な理由なく価格交渉を拒否することは独占禁止法の優越的地位の濫用に抵触するとされています。柔道整復師の改定率は合理的な根拠の提示もなく、交渉もさせてもらえないこの「二分の一改定料金」の一方的な押し付けに対して日本接骨師会では発足以来、料金正常化のため政府・厚生労働省に対して「告示準拠料金」への改正を繰り返し行ってきました。(「適正料金への要望」参照)先般、令和7年9月3日と10月7日にも厚生労働省・保健局医療課に貴重なお時間をいただき告示料金への要望を行ってきましたが納得のいく回答はありませんでした。
「柔道整復師医療費算定基準改正の要望」
令和7年 9月 3日 厚生労働省会議室
出席者
厚生労働省 保険局医療課 療養指導専門官
〃 保険局医療課 保健医療企画調査室長
〃 保険局医療課 課長補佐
(協)日本接骨師会 会長
〃 事務局2名
衆議院議員 吉田宣弘 政策担当秘書
令和7年10月7日 厚生労働省会議室
出席者
厚生労働省 保険局医療課 療養指導専門官
〃 保険局医療課 課長補佐
(協)日本接骨師会 会長
〃 保険部長
〃 事務局2名
この物価高に対し、役務に合った対価、エビデンスに基づく時代に合った料金をしっかり実現しなくてはこの仕事を続けていくことは非常に難しいです。嫌なら保険を使わず自由診療という考え方もありますが、保険制度は患者さんにとって大切な制度ですので協力し維持していくことも重要です。
次回改定では物価高ということで、限定的な改定や補助金などの支援があるかもしれませんが、それにごまかされずにこのような価格交渉のない現在の柔道整復師療養費について日本接骨師会では公正、公平な料金制度である「告示準拠」の恒久的な実現のために活動を強く続けています。

