変形性膝関節症でも捻挫する
「変形性膝関節症でも捻挫する」
この題名だと、「変形性膝関節症」を「捻挫」へ付け替える問題と思われるかもしれませんが、そうではありません。本件は整形外科を受診し「変形性膝関節症」と診断され慢性疼痛疾患だから、その後の整復師受診による「膝関節捻挫」は不支給とされましたが、下記の報告にあるように、変形性膝関節症や高齢者だからこそ、軽微な外力などで損傷し易いということが理解され支給となった例です。そして、何より、この患者は整形外科へは1回でやめ、その後、自らの意思で整復師を受診、通院をしており、たとえ医師の処方薬の期間中であってもセカンドオピニオンは現代社会では広く認められており、この保険者による患者の選択権を無視し「医師を優先」とした姿勢が問題となった例です。
<整復師よりの報告>
左膝関節捻挫で療養費支給申請したところ不支給(報告)
(整形外科で変形性膝関節症の診断を受け薬剤の処方も受けている)
保険者 トランス・コスモス健康保険組合
傷病名 左膝関節捻挫
負傷原因 立ち上がって歩こうとした時、捻って負傷。
負傷日 平成25年12月9日初診日平成25年12月9日(診療実日数5日)継続
治療終了日 平成26年1月10日(診療実日数2日)治癒 被保険者59歳(女性}
平成27年6月18日
【不支給決定理由】
平成25年12月3日〇〇〇整形外科において「左変形性膝_症」の診断を受け薬剤の処方も受けて
おられます。「左膝関節捻挫」の部位は「左変形性膝関節症」に関連するも のです。
なお、〇〇整形外科では「左変形関節捻挫」の傷病は見当たりません。整骨院は本来非外傷の症状 を「捻挫」とされたものであり、健康保険への柔道整復師施術療養費として請求用件を満たされて いないため、本請求は不支給とします。
【整形外科処置参考】
平成25年12月3 日 実数1日
〇左膝関節単純撮影 〇関節穿刺(片) 〇慢性疼痛疾患管理料
処方【内服】1日2回朝夕食後 インフリーSカプセル200mg2力プセル(数量7)
【外用】1日1回膝に貼付ロキソプロフェンN aハツプ200mg21枚(数量1)
平成27年7月29日
関東信越厚生局社会保険審査官へ不支給決定に対し審査請求。
平成27年9月2日
審査請求に対し関東信越厚生局社会保険審査官より審査請求を棄却。
【棄却理由】
平成25年12月3日〇〇〇整形外科を受診した際「左変形性膝関節症」と診断され、請求人に対し診療及び鎮痛•抗炎症剤の投薬のほか、慢性疼痛疾患管理料が算定されていることから、左変形性膝関節症が治癒したものと認めることは困難である。左膝関節捻挫は整形外科で治療を受けた左変形性膝関節症による慢性疼痛が影響しているものとするのが相当とし、療養費の支給対象となる 負傷とされる「急性又は亜急性の外傷の骨折、脱臼、打撲及び捻挫」に該当するとまで認めることは困難とし保険者の処分は妥当とし取り消すことはできないとしました。
平成28年5月30日
社会保険審査委員長より療養費を支給しないとした処分を取り消す。
【取り消し理由】
平成25年12月3日〇〇〇整形外科で左変形性膝関節症の診断のもと左関節内の関節液の穿刺後、処置は慢性炎症(変形性関節症)が生じることを意味するものであるが、12月9日の当該傷病を受傷していないという医学的根拠となるものではないとしました。
捻挫とは、医学的には生理的な可動範囲を超えた動きが加わったために起こる損傷をいうが、膝関節の場合は、伸展•屈曲以外に膝を捻る機能(内旋•外旋)を併せ持つ複雑な関節である。関節 穿刺が必要となるほど関節液が溜まる変形性膝関節症がある場合、立ち上がって歩こうとした場 合のような強い外力が加わらない場合であっても、微妙な膝の捻り具合により、滑膜や半月板を 大腿骨と脛骨の関節面で挾み損傷することがある。したがって、捻挫の受傷機転が明らかでないと し、柔道整復の施術を受ける6日前に同一部位の変形性関節症の治療を受けたことをもって、捻挫ではないと断定することはできないと認め、請求用件を満たしていないため療養費を支給しない とした処分は妥当でないとしました。
【本問の注意点】
保険者は負傷原因を無視し、医師診断名、「変形性関節症」の関連と断定し保険者権限の乱用で不支給としました。医師診断傷病が慢性疾患名の場合、この様な保険者権限乱用で多くの不支給があることが推測できます。
また、審査請求で関東信越厚生局社会保険審査官の誤りは、患者が「変形性関節症」であること を認めているにも拘らず軽微な外力で負傷する素因があることの理解不足と、医師受診1回にも拘らず診療報酬明細書による投薬と慢性疼痛疾患管理料が算定されていることから、左変形性膝関節症が治癒したものと認められないとし不支給が妥当としました。
【まとめ】
被保険者(患者)は、整復師受診6日前、整形外科受診で患部関節(液)穿刺処置および、内服薬•外用 ハツプ剤の処方にも拘わらず整形外科実日数1回で、医師医療を継続することなく、何故、整復師 医療を自らの意思で7回を選択したのか、患者は、「医師資格」対「整復師資格」を判断したもの でなく、自らの疾患、疼痛を少しでも早期に軽減•緩和、治癒を望むのが当然で、この患者が特別 でないことの理解と、今回の事件を通し患者の医療選択権および、整復師治療で効果が期待できる手技療法の成果と患者のための保険制度と「同一患者の同一治療」の医療費問題の提起となる事件 でした。
最後に、公正•公平に分析し間違いを正した厚生労働省保険局総務課社会保険密査会に敬意を表 します。