中国残留邦人患者の受診妨害事件
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中国残留邦人患者の受診妨害事件

2016年07月09日(土)1:38 PM受診妨害, 生活保護

今回の事案は、平成28年2月、東京都江戸川区福祉事務所のケースワーカによる中国残留邦人患者への整復師医療に対する受診妨害事件です。本問は、中国残留邦人も生活保護制度とほぼ同様に医療や施術を受けられることはもちろん、医療選択の自由もあり、この対象に整復師医療も含まれています。こうした中、中国残留邦人の方が整復師医療を選択したにもかかわらず、ケースワーカーに医師受診を強制されて患者の医療選択権を奪われてしまいました。このケースワーカーの対応に疑問に思った整復師からの連絡を受けた安藤法制部長が問題の解決をした報告です。

 なお、今回、中国残留邦人の方に対しての受診妨害であったため「中国残留邦人患者」と記しておりますが、厚生労働省では中国残留邦人と樺太残留邦人の方々を総称して「中国残留邦人等」と呼んでいますことを書き添えておきます。

 

 

事案の概要

 

 平成28年2月19日金曜日午後4時過ぎに、同区内で開業している整復師から連絡が入る。

 中国残留邦人の女性の患者さんが足を痛め、整骨院に来院。患者さんは福祉事務所からの意見書を持参せず来院したため、整復師は治療する前に福祉事務所(生活援護第一課)に電話を入れ、意見書が無くても治療していいか念のため確認を取る。

 整復師は福祉事務所の担当者に電話し、担当者は患者と電話を代わるよう申し出て、患者さんと中国語で会話。

 電話を切ると、患者さんは整復師に対して「糖尿病の治療で病院に通っているので、そこの整形外科に受診して下さい」と担当者に言われたと告げる。

 整復師はおかしいと思い、すぐさま福祉事務所の担当者に電話を入れるが、席をはずしているとのことで連絡待ち。1時間ほどして電話がかかってくる。

 整復師は担当者に「なぜ病院に行かなきゃいけいのですか? 自分の行きたいところに通えるのではないのですか?」と質問すると、「病院に行くことになっていますから」として整復師医療の受診を妨害。

 

そこで、整復師から安藤に相談。

 

 

平成28年2月19日(金) 安藤から福祉事務所へ電話

 江戸川区福祉事務所で医療・施術を統括しているのが生活援護第二課のため生活援護第二課の係長へ電話連絡。

 不在のため戻り次第連絡を頂けることを約束して電話を切る。そのあと、すぐに係長から連絡が入る。

 係長に事件の概要を伝える。

 係長は「もしその話が事実であればそれは患者さんに対する受診妨害になります。」とすぐに理解をして頂く。

 だが、申し訳ありませんが5時を過ぎてしまいましたので、月曜日に担当者と担当者の上司に連絡を取って事実関係を確認し、報告をしますと約束をして電話を切る。

 

 

平成28年2月22日(月) 係長より電話

 係長より連絡が入る。「受診妨害は間違いないと思いますが、間違えがあってはいけません。正確なことをお伝えしたいので、2.3日お時間を頂けませんか?」とのお話。

 「わかりました」と言って電話を切る。

 

 

平成28年2月23日(火) 係長より電話

 翌日に回答と説明が入る。

 中国残留邦人の方々は生活保護の方とは法律で違いがあるものの、生活保護患者の場合とほぼ一緒で医療扶助を受けることができるとの回答でした。よって、患者ざんが病院に行くことになってしまったことについては大変申し訳ありませんでしたと謝罪がある。

 また、説明によると、中国残留邦人の方々は現在、「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律」により一部については中国残留邦人等の特別な事情に配慮して生活保護法とは異なる取扱いが行われております。しかも、中国残留邦人の方々は「本人確認証」をお持ちでその確認証を医療機関で提示すればどこでも医療を受けられるということなのです。そもそも福祉事務所に伝えることもなく健康保険と同じように自分の行きたい医療機関にかかることが出来きたのです。

 

 

 

受診妨害問題発生原因と対策

 

 今回事案の発生理由として係長は、江戸川区の福祉事務所には生活保護と中国残留邦人とでは担当するケースワーカーは別々に配属されているそうで、整復師医療に対する受診妨害を無くすために江戸川区で指導・周知徹底されていたのが生活保護患者担当のケースワーカーだけだったという何ともお粗末な理由でした。

 係長は落度を認めて謝罪をし、直ちに残留邦人担当のケースワーカーにも指導を徹底して江戸川区内全体で再発防止に努めますとお約束を頂きました。

 

 

平成28年2月24日

 午前10時ころ福祉事務所の担当ケースワーカーの上司から整復師にお詫びの電話連絡があり、昼間には係長が直接整復師の施術所を訪ねて謝罪。

 

 

まとめ

 今回、係長からはまず、残留邦人担当のケースワーカーが受診妨害にならないようにご理解頂き、さらに残留邦人の方々に医療選択の自由があることをきちんと説明し、二度と今回のような事案が再発することのないよう指導と周知徹底をして頂きたいと考えます。という注意と理解を得ることになりました。

 さらに、全国各地には今回の江戸川区のように生活保護を受けて生活されている方と中国残留邦人等の方々が混在して生活されている自治体がたくさんあると思います。従って決して江戸川区に限ったことではないと考えますので、必要に応じて全国の自治体に指導を徹底して頂き患者さんの医療選択の自由を奪われない取り組みをやっていかなければならないのかと考えております。

 生活保護受給者は2016年2月時点でおよそ216万人、中国残留邦人等の人数は家族を含めて2016年3月時点で、中国残留邦人が20894人、樺太残留邦人が273人で合わせましておよそ21000人です。生活保護の1%ですので開院されてから一人も来院したことのない施術所もあるかもしれませんが、生活保護患者同様、中国残留邦人等患者の医療選択の自由を不当に奪わられないよう皆様と一緒に取り組まなければならないと考えております。



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